Monologue

日々感じたことをコツコツと。

奥山くんから学んだこと

奥山由之さんが好きだ。

彼は私と歳の変わらない写真家で、ファッション誌や企業広告、アーティストのジャケット写真まで、幅広く活躍している。もともとは、ZOOZOOZOOというラジオのパーソナリティを勤めていたことから彼を知ったのだが、ラジオを通して人柄に興味を持ち、実際に写真を見て、ファンになった。芸術って素敵とは思うけれど、正直私は写真や美術について語れるほど、造詣は深くない。なんかいいなといった感覚レベルでしか話ができず、人の解説を聞くとそんな視点で人は作品を見ているのかと関心することもしばしばである。

先日、彼の最新の写真集のトークイベントに参加してきた。来場している人は年齢層もさまざまで皆、芸術が好きそうな人ばかり。トークテーマも写真集を一緒に作り上げたアートディレクターの葛西氏との対談で、奥山くんのファンだけでなく葛西さんのファンもいたのだろうと思う。

正直、今回の写真集は写真展に行った際も理解するのが難しい作品だった。だからこそ、奥山くんの口でどんな背景があってこの作品を撮ったのか聞いてみたいと思ったのだ。実際に話を聞くと、そんな背景でこの構成にしたのかと納得する部分があり、思わず写真集を購入しサインまでしてもらったのはトークイベントにまんまと乗せられていると言われても仕方ない。

本当は写真集の物語についても語りたいところだが、今回は素直に学んで感動したことを書き留めておきたい。

一つ目は、一つの写真集にはその写真家とそれに関わる人々のこだわりが痛々しいほどに詰まっているという発見だ。今まで写真集を見る時、注目しているのはその写真自身でその本の作りや、写真の配置、フォント、文字の間隔、髪の質感なんてものに目を向けたことはなかった。でも今回のトークショーは、相手が葛西さんだったこともあり、「本」に対するこだわりがたくさん語られていく。写真一枚一枚にも、もちろん物語はあるが、それを組み合わせることで新しいメッセージや物語を紡ぎだしているといった趣旨だ。写真集の写真を、本に出てくる主人公がよく行く喫茶店やよく聞く音楽を描写するように「素材」として活用していく本の作り方。「ほう。そんな作り方があるのか!」と素直に驚いた。この歳になってここまで予想していなかった学びに出会うことは少なく、一冊一冊、本のディテールがどうしてこの形式なのかという視点からもう一度色々なものを見てみたい!と興奮した瞬間だった。

これは展覧会や写真展でも同じで、奥山くんは人が作品を見るテンポまでコントロールしようとしていた。凄まじいこだわりである。どんなふうに写真を見て欲しいのか?ただ作品を提示するのではなく、見方にまでこだわり尽くす姿勢はとてもかっこいい。これは自分の仕事でも応用できることで、自分が受け取り手になった時にそこにはどんな体験が存在するのか。そんなことを意識しながらものづくりをしていきたいと感じさせられた。そして葛西さんの言葉にあった「作家と旅するような感覚。」この感覚も忘れずにクライアントと最高の旅をしたいと思う。

二つ目は、ものの見方。奥山くんは低音ボイスの良い声の持ち主で会話のテンポにも独特の膜を帯びているように感じる。一見、軽やかな青年に見えるのに、中には図太い芯を抱えているようなそんな感覚。そのたたずまいもすてきだが、選ぶ言葉はもっと魅力的だ。例えば、コミュニティを球体と表現し、人のオーラや雰囲気を波動という。言葉にできない感性をイメージで切り取って、それを他のものに例える。言葉一つで微妙なニュアンスが変わってくるのだ。デザイナーならごく一般的な表現かもしれないが、わたしにはとても新鮮だった。葛西さんも奥山くんを「雰囲気ふくめて言葉を醸す人」と言う。この言葉のチョイスもまたすてきじゃないか。

言葉をとても選んで相手に伝えていく奥山くん。言葉のパワーや影響について普段の私の軽い言葉を反省するとともに、もっと視覚的に表現すれば、言葉にならない思いを人に伝えられるのかもしれない。と感じた。この感覚をもらってから、普段目にしているものの見え方も変わってきている。既存に用意された言葉でさらりと片付けたくない感動や、思いは少しでも別の言葉で表現するようになった。些細な幸せにも気がつくようになり、その些細な幸せを噛みしめる言葉を探すようにもなった。詩集などに興味を持つようになったのもこの影響だろう。

奥山くんの写真はその写真だけで十分魅力的である。でも、わたしは奥山くんのマインドや感性を尊敬しているのだと思う。私の軸は結局、「人」でその人の魅力を表現しているモノにも興味を持つだけである。今後もわたしは奥山くんの考え方の部分に触れていきたいと思うし、自分と異なる道でなにかを極めている人には積極的に会っていきたい。自分の知らない世界がそこにはあり、新しい世界に自分がどんどんアップデートしていけるのなら最高の人生だ。私をアップデートする出会いがこの先もいっぱいあるのだろう。自分の人生が楽しみである。

自分の夢に生きる人、やっぱり大好きだ。